第4回は、松井優征先生作品の魅力である「セリフ」について。
ところが松井先生自身は「自分はワードセンスゼロ」と……ではいったいどうやって産み出しているんでしょうか?
東
松井先生は、防御力の話などで「セリフをとにかく短くしましょう」とセリフへのこだわりをよく語られるんですが、セリフ力を磨くにあたって意識されたこと・勉強されたことはありますか?言葉って先天的な素養が大きい気がしていて、もし後天的に磨く方法があれば知りたいなと。
松井
先生
自分はワードセンスゼロなのは自覚しているんですよ。ふたつの言葉を1つにまとめる時に、何かないかなーって毎回ネットで検索しては「全然ないや」って。でもネットで検索できるものではないんですよね。ああいうものって。辞書には落ちていない言い方がいっぱいあって、でもそれを編み出すセンスが自分には全然ない。しかも年を経るごとにどんどん言葉への感度は鈍くなっていくので。
ワードセンスはどちらかというと攻撃力に近いですよね。ただ、文字数を減らすこと自体は誰でもできるはず。「こことここ、かぶっているよね」って部分は必ずあるので、まずそれを減らすだけでまるで違います。
東
なるほど。センスを要さずとも出来ることはあるんだと。
松井
先生
吹き出しを減らしたい、文字を減らしたいと少しでも意識しておけば、必ずつながります。だから自分のやってることって、言葉の上手い人のステップが0から10まであったとすれば、2とか3くらいまでしかやっていないんです。センスもないし新しいボキャブラリーもないです。小説も全然読んでいないですから。だから、ただただ形を整えているだけ。でも自分が読みやすいと評価されているということは、そういう作業をやってる人が少ないんじゃないでしょうか。
あとはワードセンスがない分、なるべく単純な言葉にします。ごく普通の言葉を何度もゴリゴリ押して、読者の中に刷り込む。で、徐々に使い方を変えていく。やりやすいのでオススメですね。たとえば『ネウロ』の「世界は謎に満ちている」というセリフ。これもありふれた言葉ですが、1話目から最終話まで言い続けています。でも1話目で言っていることと、最終話で言っていることは、全然受け取る意味合いが違う。
東
たしかに。
松井
先生
1話目ではかっこつけて言っていただけのセリフだけど、いろいろなことがあって中身が入っていく。その変化に読者はめちゃめちゃカタルシスを感じてくれる。でも言っていることは普通で、なんのワードセンスもない。ただ平凡な言葉でも繰り返し使うことによって、どんどん深みが増していったりする。これは言葉の使えない人でもできることです。
東
シンプルなぶん、作者も読者も意味を込めやすくもあるんでしょうね。松井先生にワードセンスがないかというと…そんなことないと思いますが(笑)
松井
先生
久保帯人先生とかに比べると全然ないです。あのセンスが仮に自分に加わったとしたら、本当に無敵になれるんじゃないかと…(笑) すさまじい攻撃力ですよ。久保先生は攻撃力の塊でありながら防御力もしっかりありますからね。
あと、誰でもやりやすいのはテーマ付けです。テーマ付けとして、その言葉を押して、ガンガン使っていく。そうするとただの平凡な言葉でも全然違って見えてきます。