――漫画をつくる“目”は、どうやって養われたんでしょうか?
白井
先生
現担当の杉田さんと出会う前に、担当についてくれた編集者さんがひとりいたんです。でも、早々に連絡が途絶えて。音信不通というやつですね(笑)。自分には才能がない、本当にダメなんだと、自分の現在位置というか、現状を、明確に知ることができました。それにすごく感謝していて。そこからは、その編集さんに言われたことをまず「解る」ようになろう、と思って、いただいた言葉を思い出せる限りすべてノートに綴り、「あのときに言われたことは、どういう意味なのか」をひたすら考えながらネームを作り続けました。編集者さんの言葉を反芻しながら、どんどんいろいろなものを見て、どんどん描いて。あと、できたネームを友だちに読んでもらって、描いたものがどう読まれるのか、自分の意図とのズレがどこにどう出ているのか、できる限りデータをとりました。そうしていくなかで、だんだんと“目”が培われていったのかもしれません。
――ネームを描くことを通じて、培っていったんですね。
白井
先生
そうです。でも、その段階では、まだ“ぼんやり見えるようになってきた”というレベルで。その後、杉田さんと出会って、具体的なアドバイスをいただいていったなかで、“手に入れた”“明確に見えるようになった”という感じです。
――離職してから『約束のネバーランド』の草稿を持ち込むまで、何年ぐらいかかりましたか?
白井
先生
5年弱くらいですね。でも、体感としてはもっと長く、8年くらいあがいていた気がします。無職で全力投球していたのに、本当に全然できなかった。
――連載開始まで5年ですか?
白井
先生
いえ、杉田さんに拾ってもらうまでです。そこから連載が始まるまでは、さらに時間はかかっています。
――白井先生でさえ、結果を出せるまでにそのくらい時間が必要だったんですね。その間、漫画家を諦めようと思ったことはありましたか?
白井
先生
あります、あります。『約束のネバーランド』の草稿を持ち込む前辺りですね。これでダメなら就職しよう、と思って、そのための技能検定の勉強もして、試験も受かっていますから。
――堅実ですね(笑)。
白井
先生
やりきった!と思えてダメだったら、社会復帰はするつもりだったので。『約束のネバーランド』の草稿は、”最後”のつもりで。
――ラストチャンスだと思っていたんですね。
白井
先生
「このネームには勝機があるのでは?」と思ったんですよね。今までとは違うかな、と。さきほど話した最初の編集者さんに「運命を変える漫画を描いてください」と言われたんです。「おもしろい」漫画ではなく、「運命を変える」漫画を。『約束のネバーランド』の草稿を描き上げたあとに、なんとなく、このネームは自分にとって”そう”なのではないか、と思ったので、これで決めよう、これで最後にして、ダメだったら別の仕事をしよう、と思いました。
――「運命を変える漫画」というのは、白井先生ご自身の運命という意味だったんでしょうか?
白井
先生
そうですね。私自身の運命です。一発逆転の作品、そのくらいのものを描かなくちゃ、ということだったのだと思います。
――中途半端なものじゃなくて「これが最高の一作だ!くらいのものを描いて!」という発破掛けですね。そのときに持ち込んだネームは、かなりのボリュームでしたよね?
白井
先生
全15話で300ページくらいのネームを持ち込みました。ヤバイ新人ですよ(笑)。
――諦めようと思っていた時期に、それだけ創作意欲を注げた作品だったんですね。
白井
先生
いえ、単純に、短くしようと思ってできる企画ではなかったんです。脱獄しきるところまで描かないと、この企画においては、商品のプレゼンにならないですし、けれど、1話45ページとかで、始まりから脱獄完了までを詰め込んだら、おもしろさの欠片も見えなくなるネームに成り下がってしまう。「300ページはやばいと思うけど、まあ、でもつまらなかったら1話で読むのをやめてもらえばいいしな」と思って持って行きました。
――「漫画家としてやっていける」と思えたきっかけは、なんでしたか?
白井
先生
その『約束のネバーランド』の草稿を、杉田さんがめちゃくちゃほめてくださった瞬間ですね。いや、そこから連載までまだ2年半くらいかかりますし、まだ持ち込んだだけで、一作の掲載にも至っていない、当の草稿自体も、今見ると全然洗練されていないレベルの、出来の甘いネームだったんですけれど。あの日、「運命を変える漫画」かもしれない、と思って持ち込みましたが、そこまでの戦歴が全敗のダメダメなので、格別の自信があるわけでもなく、集英社の打ち合わせブースで、ビクビクしながらずっと待っていて。その間、周囲のブースから新人さんが担当編集者の辛辣な批評を受けているのが聞こえてくるんですよ。自分も経験があるし、今回も何か言われるかも……と。でも蓋を開けてみたら杉田さんがすごく、というか、ちょっとびっくりするほどほめてくださったので、これは本当に「運命」を変えられたかも、と(笑)。決して浮かれてはいなかったんですけれど、調子に乗って「いけるかもしれない!」と思ったのがきっかけですね(笑)。
――これまでに描かれた作品と、運命を変えた『約束のネバーランド』とでは、明確に違う部分はありますか?
白井
先生
“目”ができてきた以外には…でも、自分が描きたいものじゃなくて、読みたいものを描いたという感じは違ったのかな、と思いますね。『約束のネバーランド』は「脱獄ものを読みたいな」と思って描き始めたので。
――もともと脱獄ものがお好きだった?
白井
先生
はい。脱獄ものもそうですし、サスペンスが好きで。海外ドラマの『プリズン・ブレイク』は、放映当時から何度見たかというくらいずっと大好きですし、ほかにも、映画『大脱出』など、ドキドキハラハラしながら「これどうなるの!?」とワクワクする感じのものが特に好きです。
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