石川
筒井先生は長らく他の雑誌で連載されていましたが、2014年からジャンプ+で「マジカルパティシェ小咲ちゃん」(全4巻)を執筆、その後2016年から少年ジャンプ本誌で「ぼくたちは勉強ができない」を連載、大ヒット&アニメ化も果たしたという、新人時代からの生え抜きの作家さんが多いジャンプでは珍しい経歴の作家さんです。今回は、他誌と比べての印象も含め、「ジャンプで描くこと」「週刊誌で描くこと」について語って頂ければと思います!
筒井
先生
ジャンプはやっぱり特別ですよね。他の雑誌と感覚が違います。僕はもともとマッグガーデンさんという出版社から発行していた「月刊コミックブレイド」で連載していました。それで連載が終わった時、色々な雑誌に売り込んで読切を描かせて頂いたんですよ。すると読切を読んで下さった他誌の編集さんから連絡が来たり…というのを1年間くらい続けていました。友人だった漫画編集者と連載を始めたりして。その頃に初代担当の齊藤さん(現週刊少年ジャンプ副編集長)と知り合いました。
石川
読切を描かれていた1年間は、何本くらい描かれていましたか?
筒井
先生
5、6本くらいでしょうか?2ヵ月に1作くらい描いていたイメージです。
石川
かなりコンスタントに描かれていたんですね。掲載された読切の人気はいかがでしたか?
筒井
先生
どうだったんでしょう…(笑)。結局連載に繋がらなかったので……今はわからないのですが、掲載された雑誌ではどれもジャンプほど読者アンケートを重視していなかったんですよね。だから僕にはアンケートの良し悪しも教えてもらえませんでした。さらに言うと、連載の継続もジャンプみたいに明確に読者人気でシステム化されているわけではなく、だいたいは単行本1巻の売り上げや初週の消化率で判断され、そこで2巻3巻が発売できるか決まる。かなり世知辛い状態でした。
石川
アンケートを踏まえて「このキャラは人気がありましたね」「人気が取れなかったから次はこういうことを試してみましょう」と戦略を立てる方向にはならないんですね。
筒井
先生
そうなんです。決して他誌を貶める意味ではありませんが、そもそも読者の母数が違うので、アンケートにあまり効力がないからではと。「面白かった」と言ってくれる読者がいても、アンケートの母数が少ないのでデータとしての精度がない。売れ行きとの関連性もないから、編集部もアンケートはあまり重視せず、作家にも伝えないのかなと思います。それで「単行本1巻が売れなかったから、2巻で打ち切りね」と、描いている過程の情報がないまま通達されるんです。「自分は面白いと思って描いていたのに、実は読者にはつまらなかった」と、そこで初めて知らされるという…。
石川
「今描いている漫画が、読者にとっても面白いのか」は、自分だけではなかなか分からないですよね。
筒井
先生
ネットでエゴサして、読んでくれた方の感想を見るくらいでした。だから母数の多い意見が分からず、単行本の売り上げでしか見ることができない…そこがジャンプとは違う厳しさです。その一方で、小規模だからこその融通の利きやすさはあると思います。ジャンプのような、決まった時期に行われる連載会議がなくて、「この編集者が面白いと言うなら、連載してもいいんじゃない?」と、サクッと始まったこともあります。そういう小回りは利いていたのかなと。
石川
昔お答えしていたインタビューでは、「読切を発表していた1年間は辛かった」と仰っていましたが、それは今のお話の「手ごたえの得にくさ」から来ていたのでしょうか?
筒井
先生
それもありますが、不安も大きいです。やっぱり漫画を描いている状態が好きなので、連載がない宙ぶらりんな状態がとにかく精神的に辛いといいますか…最初の連載が終わった後、先ほどの小回りの利く編集部のおかげで3ヵ月後に新連載が決まったのですが、その時点では何もできていなくて(笑)。それでも無理矢理作ったんですが、1話目の直後に担当さんが異動になってしまったんです。あとは自分でやらねば…ということで何とか畳みきりました。また、同時進行で『STEINS;GATE』というアドベンチャーゲームのコミカライズ(『STEINS;GATE 比翼恋理のスイーツはにー』)も連載させて頂いていました。それらが全部終わった後、先ほどの1年間の読切期間があったんです。
STEINS;GATE 比翼恋理のスイーツはにー/発行:マッグガーデン
その後、初代担当の齊藤さんに声をかけていただいたのがきっかけで『ニセコイ』のスピンオフ漫画『マジカルパティシエ小咲ちゃん!!』をジャンプ+で描かせて頂きました。あれがターニングポイントでした。
マジカルパティシエ小咲ちゃん!!/発行:集英社
石川
齊藤さんいわく、『ニセコイ』(古味直志先生)のスピンオフ企画の作家さんを探す時、以前読んだ筒井先生の『STEINS;GATE』コミカライズがラブコメとしてかなり面白かったのを思い出して相談してみた…とのことでした。
筒井
先生
読切を1年間描いていた頃は「これを描かないと仕事がないぞ」と思っていたのですが、描いていると、その読切を読んだ他所の編集さんからもお声掛けがあるんですよ。だから「何かを描けば何かに繋がっていく」と感じました。『小咲ちゃん』を隔週で描きながら、他社の月刊連載も並行していて。「筒井先生、このペースで描けるなら週刊連載もできるのでは?」と言ってもらえたので、だんだんオリジナルの企画の打ち合わせも始めました。でも、ジャンプはよその編集部と違っていっさい小回りが利かないので(笑)、「でもすみません。スピンオフを描いて頂いた作家さんでも、ネームが連載会議を通らないかぎりはジャンプでは連載できません」という感じでした…(笑)。ただ、どんな作家さんにも特別扱いもなく、フェアに「漫画の面白さだけで決める」という門戸が開かれているのは、ジャンプのとても良いところです。それで、『小咲ちゃん』が終わったのが2016年の9月くらいで、10月くらいには増刊で読切を1本描かせて頂きましたね。
筒井
先生
いきなり連載企画を回しても、「この作家さん、オリジナルでは描けるの?」となるかもしれないので、「自分はこんな読切が描けて、これくらいの人気は取れます!!」と、編集部に地力を見せたかったというのもあります。そのあと、連載作品の打ち合わせでは確か60本くらい企画を持って行って、全部ボツになりました。でもその時に打ち合わせをしていたらふと「理系と文系の女の子って、どうですか?」という話になって、そこから早かった気がします。たまたま12月の頭に連載会議があるので、そこを目指して1ヵ月半くらいの突貫作業でした。
石川
ちなみにジャンプ以外の雑誌では、ネーム提出会議みたいなものはありましたか? ジャンプはだいたい2か月半に1回、連載作品を決める会議がありますが。
筒井
先生
僕が描かせていただいたところでは、ジャンプの連載会議みたいに「最初の3話までネームを描いて編集部に読んでもらう」というのはありませんでした。1話のネームを編集長に見せて、そこでOKだったら連載決定という感じです。上の人がOKだったらいいというシステムで、「ネームができたなら載せてみる?」「でも1巻出して売れなかったらおしまいね」という博打みたいな面がありました。
石川
連載中の反応が測れないとなると、売れそうだから1巻の部数を積む(たくさん作る)のも難しそうですね。
筒井
先生
そこは大きいですね。ある意味別の畑から来た僕だからこそ、ありがたみが分かると思っています。ジャンプでしか描いたことがないと「並べられて当然、売れて当然、誰もが知っていて当然」と思うかもしれませんが、それは他の雑誌ではありえない。何年やっても知名度がなかなか伸びなかったり…。だからジャンプに来て、それまで当然だと思っていたことが全部覆ったんです。ジャンプの圧倒的な力を感じましたね。他にも、それまでは単行本が出たら漫画家自身がtwitterで宣伝したり、自分で営業しないとそもそも気づいてもらえなかったり。ジャンプでは編集部や営業部の方々が援護してくれるので、漫画家は描いてさえいれば売れてくれる。こんなにありがたいことはないですね。
石川
会議を突破して始まった作品なので、間違いなく面白い漫画だと編集部や営業部門など集英社のみんなが知っている、ということが大前提としてあります。面白いから色々な人が関わって、それでどんどん大きくなっていくのだと思ってます。
第2回へ続く