【第4回】色々と描いてきたことが今に繋がっている 『ぼくたちは勉強ができない』筒井大志先生に聞いてみた

漫画賞の審査時に筒井先生が重視するポイント、また「描き続けること」の大切さを語っていただきました。

2022/02/10


編集者 石川

石川

ちなみに筒井先生はスケジュール面でもものすごく優秀ですが、優良進行の秘訣はありますか?

筒井大志

筒井
先生

あまり他の方のことが分からないですが…完全にノルマ制というか、自分の中でシステムにしているんです。連載でいうと…まず木曜日昼から夕方まで担当さんと打ち合わせ。金曜日昼からネームをやって、金曜深夜に提出します。直しも含めて土曜日の夕方にはネームが終わるので、そこから下描きとペン入れを始めます。可能であれば、土曜日中にペン入れを5ページ終わらせたいですね。僕のペースだと、1日にペン入れまでできるのが7ページです。なので土曜日に5ページ終わらせておけば、日曜日と月曜日に7ページずつやって1話19ページが終わります。アシスタントさんは月曜日~水曜日まで入ってくれて、大体水曜日の夕方には僕も一緒に仕上げをして原稿が完成します。ここでノルマ通りに月曜日中にペン入れが終わっていると、火曜日は全部アシスタントさんに任せられるので、僕自身は空くんです。そこでカラーや不定期の仕事をやってしまう。厳しければ来週の火曜日と分けます。常に仕事に追われているというよりは「今日の分のノルマをやる」という感じですね。

編集者 石川

石川

描き始めて1日でネームが上がるというのがすさまじいですよね。打ち合わせでかなり詰めているからでしょうか?

筒井大志

筒井
先生

週刊連載の魔力で、なぜができていたんですよね。ネームができないと終わりだから、できないということはあり得ないんです(笑)。常に背水の陣だからだと思います。

編集者 石川

石川

確か最初の連載会議のネームの後、ネームにすごい手こずっていたと聞きました。

筒井大志

筒井
先生

あの頃、インフルエンザになったんですよ。ちょうど4話のネームの時です。40℃の熱に苦しみながらベッドで考えていたのですが、ひとつ分かったのは、人間は40℃の熱があると面白いことが考えられないんです(笑)。4話はうるかの登場回だったので、きちんと治してから考えようと、スケジュールの余裕を切り崩して作った覚えがあります。

編集者 石川

石川

どれくらいで週刊ペースのネーム作業に慣れましたか?

筒井大志

筒井
先生

いつも「今週のネームをやるぞ!やるぞ!」と自分を焚きつけていたので、慣れたということはないと思います。かといって締切が延びたこともないですし…。でも1年くらいやったら慣れたのかなぁ。自分のポリシーとして「絶対に担当さんに催促させない」があります。逆に担当さんを「もう終わったんですか!?」と驚かせるのが好きなんです。だから『ぼく勉』の最初も、1話目の原稿の締切を提示されたのに3話の原稿まで出したんですよ。

編集者 石川

石川

作家さんにそういうポジティブな方向で驚かされるのは嬉しいです!

筒井大志

筒井
先生

週刊の進行は過酷か?と言われたら確かに過酷です。楽にお金を稼ぎたいという人はやらない方がいいと思います。でも漫画が好きで、戦っている楽しさを味わえるのはジャンプだと思いますね。

編集者 石川

石川

筒井先生はジャンプに来て初めて漫画賞の審査員をされました。やってみていかがでしたか?

筒井大志

筒井
先生

大変でしたね。自分としてはおこがましいというか、人を審査する立場でないのに急に偉そうになって苦手です…。でも勉強になりました。新人さんが陥りやすいミスというか、まだ荒削りな漫画を見ると気づきが多いです。これはきっと、編集さんが通っていることだと思いますが。

編集者 石川

石川

世の中に出ている漫画は何作か経たものだったり、コンペを通過したりしてある程度は整えられたものですから、確かに普通は見る機会がないですよね。

筒井大志

筒井
先生

実際に読ませていただくと「こういう部分が足りてないと、こうなるんだ」と気づいたことが多くて自分の経験値になりました。

編集者 石川

石川

どういったポイントを評価されたとか、覚えていますか?

筒井大志

筒井
先生

漫画としての読みやすさとか、話の整合性とかを基準に審査した覚えがあります。

編集者 石川

石川

 

奇をてらったものより、最初の読みやすさや整合性が大事ということでしょうか?

筒井大志

筒井
先生

もちろん奇をてらって、ずば抜けた漫画を見せてくれることが一番いいと思いますが、審査員として作品を読むとなると、僕としては基礎力を見るところがありました。そこは編集さんの観点とは違うかも知れませんが。作家という玄人の立場だからこそ、精査するとしたら基礎力だったのでしょうね。

編集者 石川

石川

「尖っていて圧倒的な個性!」を評価される作家さんもいますが、筒井先生のような見方の作家さんもいるということですね。それでは最後に、これから賞に投稿したいと思っている作家志望者に一言お願いします。

筒井大志

筒井
先生

週刊連載は厳しいこともあるけれど、楽しいです。漫画家を目指すなら、人生に一度はやった方がいいと思います。僕も月刊連載の頃から「やっぱり漫画の本場は週刊だよな」という憧れがずっとありました。一方で月刊に落ち着くと変化が怖くなったりもしましたが、挑戦したことが今に繋がっているんです。だから迷っている人は、まず挑戦してみるべきだと思います。内容も大事ですが、まず踏み出してみることが大事です。

編集者 石川

石川

筒井先生は特に、色々と描いてきたことが今に繋がっていますからね。齊藤さんが『STEINS;GATE』のアンソロジーを読んでいなければ…とか(笑)。

筒井大志

筒井
先生

あのアンソロを描いたのも、僕が『STEINS;GATE』にはまって、当時描いていたコミックブレイド編集部で「超面白いです」と言いまくっていたのがきっかけなんです。僕の担当ではない編集さんが「じゃあ描きます?作家探しているんですよ」と声を掛けて下さって。その時は『フカシギフィリア』という連載が始まったばかりで、月刊とはいえ2本同時連載は初めてでしたが、やってみるべきと思ったんです。何でも挑戦してみる、好きなものは言う、それがどこかで繋がるんです。皆さんも今回、賞に出して駄目だったとしても、必ず挑戦した意味はあると思います。常に行動してみるのをお勧めします。

  1. 【第1回】ジャンプに来て、それまで当然だと思っていたことが全部覆った
  2. 【第2回】作品を良くするための話し合いであれば幸せ
  3. 【第3回】ジャンプのアンケートは面白い
  4. 【第4回】色々と描いてきたことが今に繋がっている

筒井大志先生 tsutsui taishi

漫画家。2008年、『月刊コミックブレイド』(マッグガーデン)にて『エスプリト』で連載デビュー。2014年~2016年、少年ジャンプ+で古味直志先生『ニセコイ』のスピンオフ『マジカルパティシエ小咲ちゃん!!』連載。2017年~2021年、週刊少年ジャンプで『ぼくたちは勉強ができない』連載。最新作は『夜雨白露は殺せない』(「ジャンプGIGA 2021 AUTUMN」掲載)

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