2021/05/27

「逃げ上手の若君」松井優征先生に聞いてみた
【第3回】目標3億円~漫画家とお金の話~

第3回は、みんな知りたいけど意外と聞けないし機会もない、とても重要なお金の話をヒット作家の立場から話してもらいました。さらに「目標設定を高く持つこと」の重要さまで。

東

今回、普段あまり語る人がいない、漫画家さんとお金の話もしていただきたいんです。漫画家を目指そうと思った時に、将来設計…お金の話って絶対出てくると思いますが、最初はどう考えられたんですか? 「一攫千金を狙ってやろう」 など?

松井先生

当時は承認欲求が強かったですからね。まずは「すごいやつになったなあ松井君」って言われたかったんでしょうね。たぶん(笑) だから具体的にいくら稼いで…と計算していたわけでもなく。描き始めてから多少連載が続くにつれ、小さくてもいいから家が欲しいみたいな形で目標が具体化されていきました。
新人さんに言いたいのは、目標は絶対高くしておいたほうがいいです。『ネウロ』の時に別の作家さんが目標3億円と言う数字を持ち出して、じゃあ僕も3億円稼ぐぞ、と無邪気に思っちゃったんです。ところがちょっとうまく噛み合ったら稼げてしまうので、そうすると一気にモチベーションが下がります。だからなるべく上にしておいたほうがいいです。もし叶えられないなら叶えられなくて当然、むしろその方がモチベーションが高いまま次の作品を描けるので。

東

目標3億円って、おそらく一流企業のサラリーマンの生涯賃金の額ですよね。

松井先生

自分は就職する才能がないから漫画家やっているわけであって、一般企業のサラリーマンの生涯賃金に追いつけるなんて最高じゃないかと。でもめちゃめちゃ大変なんですけどね、3億円稼ぐのは。当たり前なんですが。
その目標を越えられる人は相当絞られるんですけど、でもそこから先は一気に稼げてしまう。特に最近はそうなんで。本屋に置かれなくなってもデジタルで売れ続けたり、爆発的にバズったりして、稼ぐチャンスがいっぱいある。目の前のことをやるのももちろん大事ですが、もしも上手く行って、うっかり目標額をオーバーしてしまった時にモチベーションが下がって、せっかくの才能が萎んでしまうのが一番もったいないと思います。
なので子供の頃から、若い頃から、何者でもない時から理想は高く持っておいて、そこに突き進むほうがいいと思います。

東

今描き始めようとしている新人作家さんたちからすると、最初の時ほど元手もないので、生活どうするんだろうみたいな不安はあると思うんですが。

松井先生

そうなんですよね。自分は2度ほど、ちゃんとバイトをしてまとまった額を稼ぐことに集中した時期がありました。実家暮らしだったのもあって、常にバイトをし続ける必要はなかったんです。なので一気にお金を稼いで、実家に引きこもってそれを切り崩しながら漫画を描いて、なくなってきたらまたバイトをしてという感じでしたね。
で、その3回目の稼ぎどころがアシスタントだったんですよ。ただ、アシスタントをやっていると、どうしても自分の時間が取れずに描けなくなってしまうので、最終的には辞めて。そこでかなり自分を追い込んで、自分の作品に集中しました。
ただ実家だからそれはできることで、今実家にいる方は、たとえ親と仲が悪くても、ご近所の眼が冷たくても、むしろそれは成功して家を早く出ようというやる気になるので、実家に住まわせてもらえるなら実家住まいが良いですよ。

東

地方の新人さんは、漠然と上京したいと言う方がいて、「いや絶対実家にいたほうがいいよ」とはよく言います。東京来ると、なぜかわからないけど月15万円くらいなくなるんだよ、と…。

松井先生

15万をカバーしようとするとアシスタントがっつり入るしかない。それはきついでしょう、時間も金もすぐなくなってしまう。自分はむしろ実家で肩身が狭いのをモチベーションにしていました。ご近所さんに顔向けできない、顔向けて歩けないという空気に身を置く。一人暮らししていたら誰も責めないですからね。



第1回『ただただお客さんのために描こう

第2回『価値とはなんだろう、何をしたら価値なんだろう

第3回『目標3億円 ~漫画家とお金の話~』

第4回『セリフは、ただただ形を整えているだけ

第5回『オリジナリティーは才能ではなく考え方

第6回『「突き破る自我」を見せてほしい

松井優征先生 Matsui Yusei

漫画家。2005年〜2009年、週刊少年ジャンプで『魔人探偵脳噛ネウロ』連載。 2012年〜2016年、週刊少年ジャンプで『暗殺教室』連載。 2021年1月〜週刊少年ジャンプで『逃げ上手の若君』連載中。