2021/06/17

「逃げ上手の若君」松井優征先生に聞いてみた
【第6回】「突き破る自我」を見せてほしい

最後は、松井先生からかつての自分、そして新人作家のみなさんへのアドバイス。 松井先生が読みたい漫画とは…?

東

新人時代の松井先生に、いまの松井先生が何か「これをやっておけ」とアドバイスできるとしたらどうしますか?

松井先生

いやー、言ってもやる気にならないだろうなぁ…(笑)。 防御力の話とか言ってもウルセーって反発されるでしょうね。それより、いくら稼いでる?とか聞かれると思います(笑)
昔と比べると色々なスキルや考え方は身についてますが、でもそれは全部失敗を通して学んだことであって、失敗をしていないんだったら実感になるわけでもなく、「絵を練習しろ」と言われても絶対しないでしょうし。

東

目標金額を高く持て、とかですかね?

松井先生

自分自身のことを聞かれると本当に何も答えることがなくなりますね…自分は自意識がものすごい低いんで、僕のことで面白いことは何もないと言う考え方です。

東

今回の話、僕はすごく面白く聞いていましたけれど(笑)

松井先生

いろんなところで弱かったからこそ考えた・頑張ったので、それは僕の弱さを持ったものにしかわからないし、その中でプロの生活でもまれてくると、最大公約数で「やっぱりこれはやらなければいけないな」と見えてくるので、それを言葉にした結果、防御力とかになったんでしょうか。

東

では最後になります。漫画賞の受賞は決してゴールではないですが、最初に作家さんが目指すものだと思いますので、作品を通して何をアピールするといちばん賞に近づくのか、松井先生はどんなところを重視してますか?

松井先生

よくキャラだ、と言われますが。自分はやっぱりちゃんとストーリーをまとめることだと思います。ちゃんと盛り上げてちゃんとまとめる。その力があるかどうか。45ページでできるのであれば、連載でもできる可能性が高いです。基本通り起承転結を作って、興味を引く「起」と、コンパクトにまとめる「承」と、もりあげる「転」と、後味のいい「結」、基本通りの事を制限ページ内でまとめる努力をした方が良いのではないかと思います。
ただそれはあくまで一例で、自由なので、自分の強みがそこでないなら、描きたいものを描けばいいんですよ。賞を取るまではあまり型にはめるべきではないと思います。本格的にいじるのって賞を獲った後なので。構成力なんかは教えられればできることでもあるので。だから月並みな言葉になってしまいますね。これが自分だという作品を思い切り描く、とか。

東

シンプルだけど、難しいやつですね。

松井先生

できれば何かに影響受けていないもの。影響受けたものは伸びしろまで全部わかってしまうので、極力、影響を排除したものを見たい。影響受けた作品があるとしても、それを突き破るような自我が見えていて欲しい。

東

なるほど、僕自身は最初のうちは影響受けて当然だし、一概に悪いことではないと考えているんですが、「突き破る自我」はすごくいい言葉ですね。 あらためて漫画賞の受賞のために、目指すべき作品像というと。

松井先生

強烈な自我と、それでもお客さんのことを考えている作品が理想ではあります。

東

あくまで両立を目指してほしい…とても松井先生らしい言葉ですね。ありがとうございました!



第1回『ただただお客さんのために描こう

第2回『価値とはなんだろう、何をしたら価値なんだろう

第3回『目標3億円 ~漫画家とお金の話~

第4回『セリフは、ただただ形を整えているだけ

第5回『オリジナリティーは才能ではなく考え方

松井優征先生 Matsui Yusei

漫画家。2005年〜2009年、週刊少年ジャンプで『魔人探偵脳噛ネウロ』連載。 2012年〜2016年、週刊少年ジャンプで『暗殺教室』連載。 2021年1月〜週刊少年ジャンプで『逃げ上手の若君』連載中。