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昨年行われた新人作家を対象とした「ジャンプの漫画学校」第2期、特別に「食戟のソーマ」原作の附田祐斗先生の講義を、質疑応答までフル収録の全3回で公開します!
※この講義は2021年10月29日に「ジャンプの漫画学校」第2期受講者を対象に行われました。
2022/07/18
『子連れ狼』の小池一夫先生が著書で仰っていましたが、「登場人物たちには主人公に関することしかしゃべらせないつもりで描くべし」、というお話がありました。先ほどのゴンの矢印も、皆がゴンに矢印を向けていましたよね。
この『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)がすごい分かりやすい例です。ポイントは、柱の意見が全員一致しておらず、先程の勇者パーティみたいに、同じチームなのに矢印が少しずつ違うんです。特に時任さんは1人だけ明後日を向いていて、キャラが立っていますね。
この後さらに蜜璃さんが「勝手に殺していいの?」となって、煉獄さんたちも「それも一理ある」と、柱同士の対立も出てきます。そして炭治郎はというと「妹を守るため、死ぬわけにはいかない」という太いベクトルがあるので、多数派の「炭治郎を殺そう」と対立していく。皆が炭治郎に向いているから、これは彼の物語であることが分かるんです。
では次に、ラブコメ漫画を例について話したいと思います。
左のAパターンはヒロインを追いかける主人公ですが、ヒロインからの矢印が主人公に出ておらず摩擦が作りづらい、つまりネームが作りづらい可能性が高いです。真ん中のB-1は『ニセコイ』(古味直志)の千棘ちゃんを見るようですが(笑)、しっかり主人公と摩擦があり、だからこそ、こすられた結果「こいつ、いい奴かも」となるんです。
B-2も別パターンですが摩擦が生まれています。もしAのような無関心なヒロインを描くのであれば、ヒロインの兄が主人公を毛嫌いしているとか、別のベクトルを用意するといいですね。
最近だと主人公とヒロインが一対一でイチャイチャする作品も多いですが、その場合はたとえば主人公がシャイボーイというハードルを用意しています。「イチャイチャしたいけれど、恥ずかしい」と自分の中に摩擦を発生させて、面白くさせるんですね。
『めぞん一刻』(高橋留美子)ですね(笑)。
『めぞん一刻』の響子さんはAパターンですね。最初は五代くんに興味がなくて別ベクトルを向いていました。
『食戟のソーマ』の料理の審査員たちもB-1と同じ理屈です。そもそも審査員だから中立で「こっちの方が美味しい」でいいんですよ。しかしそれだとふり幅が小さいんです。「あんたなんてサイテー」と言っているヒロインが好きになってくれたら、感情変化のふり幅が大きく、その差が面白い。だから審査員も「こんな小僧の料理なんて美味いわけがない」と最初はナメていて、そこからから「美味いいいい!!」となると面白いと思ったんです。
なるほど、大正解だと思います!
これまで説明したベクトルですが、いきなり最初から図にするより、何となく「こんなシーンを描きたい」「そうなるとキャラはこんな感じ」とか、台詞を作り始めた辺りで考えるといいと思います。
ネームができたら、友達に読んでもらうといいです。ベクトルを表現できているつもりでも、友達は「この主人公、何が目的だっけ?」とか聞いてくることがあります。それは主人公の矢印を表現するシーンがまだ弱いから。主人公の欲望を大ゴマで「海賊王におれはなる」とバシッと言わせたり、主張を際立たせる演出を作るといいと思います。
読切では特に「余計なキャラ」を入れる余裕がないので、それぞれの矢印をチェックして、かぶるキャラがいたら片方を削りましょう。僕が読切で心掛けているのは「キャラ数は少なければ少ないほどいい」です。もちろん1人にすればいいというわけではありませんが、特に読切はキャラ名を覚えてもらうことすら大変です。しかも余計なキャラが出るだけで、主人公の印象が薄れてしまいます。
そして主人公のベクトルは敵キャラのベクトルときちんと対立しているか。ただ「敵だから」「対戦相手だから」だけではなく、欲望や哲学が対立しているか。スポーツ漫画だったら「優勝するのは俺たちだ」プラス「うちのプレイスタイルはこうだ。これでお前たちを叩きつぶす」という哲学が備わっていると、対立が見えやすくなります。『食戟のソーマ』でもここが噛み合っていなくて、ネームをすごい直していました。よくよく見てみると、敵キャラが主人公に全然興味を持っていなかったりするんです。
今「哲学」という堅苦しい言い方をしましたが、もっと簡単に対立や摩擦を生み出す方法があります。因縁をつける、喧嘩を売り合えば摩擦が生まれやすいんですよ。「なんだオマエ!」となってから哲学を語るといいですね。たとえば『SLAM DUNK』(井上雄彦)では必ずと言っていいほど、試合の前に相手と一触即発の状態になります。新幹線の中で足を引っかけたり頭を掴んだり、相手の練習中に乱入してダンクを決めたり。それでお互いに意識が向いて摩擦のスタートになるんですよね。
しかも王者なのに相手をしっかり調べるという哲学も出ているし。
ありますね。観客は王者・山王が勝つところが見たくて、湘北は悪役だという。よくできていますよね、さすがです。
なので戻りますと、『食戟のソーマ』以前はネームが動かないと、ずっと白紙ネームとにらめっこしていました。しかしネームの基礎判断力がついて「詰まっているのは矢印が出ていないから」と判断できるようになりました。
初代担当の中路さんは、「ネームが組めない時は、絶対に何か原因がある」と言ってくれました。余裕で描ける時は深く考えず、何なら今日の講義も忘れて頂いて結構です。ただ詰まった時は、一旦ロジカルに考えることを思い出して欲しいです。
自分の中にそういった定規を持っているだけで全然違いますね。
本当にパニックになると頭が真っ白になるので(笑)。なので「矢印」「こする」みたいな言葉を担当と共有できていると打開策になると思います。
第3回へ続く
附田祐斗先生 tsukuda yuto
漫画家。第34回ジャンプ十二傑新人漫画賞で『牙になる』が十二傑賞受賞。2012年〜2019年、週刊少年ジャンプで『食戟のソーマ』原作担当。
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