【第3回】質疑応答 『食戟のソーマ』附田祐斗先生による「ジャンプの漫画学校第2期」講義

昨年行われた新人作家を対象とした「ジャンプの漫画学校」第2期、特別に「食戟のソーマ」原作の附田祐斗先生の講義を、質疑応答までフル収録の全3回で公開します!
※この講義は2021年10月29日に「ジャンプの漫画学校」第2期受講者を対象に行われました。

2022/07/25


編集者 齊藤

齊藤

最初の方で「キャラを動かすことがよく分からない」と仰っていましたが、担当にもっと詳しく質問はしなかったのですか?

附田祐斗

附田
先生

わかっているつもりでいたんです。僕は『少年疾駆』で主人公に「チャンピオンズリーグに立つ」という矢印を出させていました。「とりあえず対戦相手を出そう」「キャラを立てるためにチームメイトと会話させよう」とは考えるのですが、それだとキャラの雑談だけになってしまうんですよね。

編集者 齊藤

齊藤

そこで対戦相手が主人公のカウンターになることを言う、とかが必要だったんですよね。

附田祐斗

附田
先生

打ち合わせでもそういう話にはなるんです。「主人公はこういうキャラだから、こういう相手を出そう」とか。それが実感として掴めず「漫画って大体こんな感じだろ」レベルで止まっていたんですね。

 

Q.「ベクトルの話は作画の佐伯先生としていますか?また、佐伯先生と共有していることはありますか?」

附田祐斗

附田
先生

『食戟のソーマ』は特殊なケースで、佐伯先生が大学の先輩だったので付き合いが長く、打ち合わせも担当さんと3人ですることが多いんです。全部共有しているのでスムーズでした。ベクトルの話については、今回の講義みたいな形でお伝えすることはありませんが、「主人公の矢印が…」「敵とこすれていないよね」みたいな話はしていました。
共有については、特に言葉に気を付けていましたね。僕がネームを描いて、佐伯先生がラフを描いて、それを僕と担当さんでチェックするのですが「何か違うんですよね」は言わないようにしていました。「主人公の表情を変えて欲しいです」「我慢の中にやるせなさを加えたいので、例えば眉毛を少し下げるとかどうでしょう」みたいに、できるだけ具体的な言葉で提案していました。そうすると佐伯先生はロジカルな方なので、意図を汲んでより良い絵を入れてくれます。

 

Q.「附田先生はサッカー漫画から料理漫画まで幅広い作品を執筆されてますが、資料の集め方を教えて下さい」

附田祐斗

附田
先生

初代担当の中路さんの影響が大きいですが、関連書籍をすごく読みます。『少年疾駆』は少年サッカーが舞台なので、中路さんが少年サッカーのコーチの自伝を大量に買ってきました。子供たちと接してのトレーニング方法、サッカー選手の名言集、雑誌「Number」の超カッコいい回とか。本からサッカー業界の世界観を知り、ボキャブラリーを増やしていました。料理も同じですね。料理人の自伝を滅茶苦茶読んで、料理学校にも取材に行きました。手ぶらで取材に行っても何を聞いたらいいのか分からないので、まずは本を読んでおき、分からないことを取材先のプロの方に聞きました。あとは、「ソーマ」の場合は森崎友紀さんもいたので。

 

Q.「大傑作だと思ったネームに対する担当の反応が芳しくなく、ネームが滑っているのか、自分の考えがズレているのか悩んでいます。自分と他人の反応のギャップは、ネームを出す前に埋めることはできますか?」

編集者 齊藤

齊藤

附田先生は定期的にネームを提出していた頃、全部通っていましたか?

附田祐斗

附田
先生

全然そんなことはありません。僕も傑作だと思ってネームを見せたら「何をやっているのか分かりません」と言われて。その時はファンタジーを描こうとしていたんです。雨雲が龍みたいに襲ってくる話ですが、ちょっと地に足がついていなくて分からない、と。その時に「受賞作が青春学園ものだったから、そっちが向いているのでは」と言われてました。向いているとは、自分が自然と描けるということです。なのでこの質問者の方も、ご自分に向いているジャンルが別にあるのかも知れません。

編集者 齊藤

齊藤

得意ではないことをやっているからズレが生じているのかも、ということですね。

附田祐斗

附田
先生

ネーム全体ではなく、「この台詞、超面白い」と思っていたら滑っている場合、どうすればいいのでしょうね?

編集者 齊藤

齊藤

あくまで編集が信用できる前提ですが…「こういうものを見せたら、こういう反応だった」を積み重ねていくことかと思います。漫画は「自分の意図が100%伝わるように描く」ことが、誰でもできそうに見えて最大の難関です。頑張って描いたものがもしつまらなかったら誰でも辛いから、内容の出来不出来を考慮せずに「面白いはず」と思い込むのも無理のないことだと思います。ただ、プロで描いていきたいならそれだとやっていけないので、「チューニングする機会を得た」と思って、反応はきちんと受け止める・なぜそう思われたか分析することをお勧めします。

附田祐斗

附田
先生

もう1つ思うのは、面白さが伝わらないのはツッコミが足りないのかも知れません。主人公が何かすごいことをしたら、周囲のキャラが「やっぱりアイツはすごい!」みたいなところを見せるといいと思います。「この主人公はこういう見方をして下さい」と合いの手やリアクションを足すと伝わりやすくなります。

編集者 齊藤

齊藤

以前の講義で僕の上司も「リアクション役を必ず置きましょう」と言っていましたね。自分がすごいと思っても、周りの反応が足りず読者に伝わる描き方になっていないのかも知れませんね。

 

Q.「キャラクターにリアリティを持たせるにはどうすればいいですか?」

附田祐斗

附田
先生

他の作家さんでも多いと思いますが、友達をそのままキャラにすることがあります。最初の投稿作品の主人公の友人たちも、地元の親友たちがモデルです。キャラを変えたり特徴をオーバーにしていますが、「彼らだったらこういう時、こうする」と脳内で出てくるので、漫画の中でも地に足がつくんです。

編集者 齊藤

齊藤

他の作家さんに聞いた時も「その人の面白いところを誇張して描く」と教えてもらいました。そのまま再現すると、意外と面白くないんですよね。

附田祐斗

附田
先生

新人さんの作品で「あの漫画のキャラそのまま」と思うことがあるので、「このキャラは自分だったらこう描く」と自分のフィルターを通すとか、他のキャラと混ぜるとか。あとは具体的なエピソードがバチっとはまるとキャラが立つことがあります。
『食戟のソーマ』の美作昴は最初にバイクで登場しますが、その時に「ちょっと待ってろ」とバイクを停めたら、カバーをかけてローブでぐるぐる巻きにして、さらに南京錠までかけて「待たせたな」と言うような奴です。ネームの時点では最初「こいつ、どんな奴なんだろう」と思いながら描いていました。

 

 

 

編集者 齊藤

齊藤

で、とりあえずバイクに乗せたんですね。

附田祐斗

附田
先生

ワイルドさを出したかったからバイクに乗せて、その辺りで「来週こいつのキャラ立てをするから、今から何か出しておきたいなぁ」「見た目がワイルドだから、逆にすごい繊細な奴だったらいいなぁ」「じゃあバイクを駐輪場にものすごく丁寧に留めさせよう」と考えました。でもそれだと見た目が弱いので「バイクを盗まれることを恐れるあまり、施錠を大げさにしよう」となりました(笑)。
キャラクターは最初から決まっている方が珍しく、まず何かに置き、そこでふり幅が出る面白さを考えます。「ワイルドそうだな」「だったら次にこれをやらせよう」と、順番に見せていくと地に足がつくと思います。

 

Q.「売れている漫画と埋もれていく漫画の、ネームの決定的な違いは何ですか?」

附田祐斗

附田
先生

「印象に残るシーンがあるか」でしょうか。その漫画を読み返そうとした時に思い出すことができるか、とか。僕が『ONE PIECE』を読んだ時だと、シャンクスが腕を失ったシーンは驚いたし、震えるほどカッコいいと思いました。

編集者 齊藤

齊藤

印象が残るシーンがある、は真理だと思いますね。編集部の先輩も読切は「とにかく記憶に残す」と言っていましたし。

附田祐斗

附田
先生

それを積み重ねているかだと思います。埋もれていても面白い作品はいっぱいありますが、「ここがすごいんだよ!」とか、人に話したくなることが大きいですね。これは僕にとっても課題です。

 

Q.「キャラのベクトルが読者に伝わっていない時はどうすればいいですか?」

附田祐斗

附田
先生

一番簡単になるのは「海賊王になる」「火影になる」みたいに、キャラに言葉で言わせることです。それでも伝わらない場合はコマを大きくする。さらには説得力を持たせる、ですね。「なぜ海賊王になりたいのか」…ルフィは腕をなくしても自分を守ってくれたシャンクスの海賊としての大きさを知り、だからこそ超えたい、という気持ちを持っています。読者もそれが分かるから、「海賊王におれはなる」と矢印が出たら「頑張れ!」となるんです。
実はこれ、『食戟のソーマ』の最初のネームでも言われました。「主人公は父親を超えたいはずが、学園に入って何をしたいのか」と。そこで「てっぺんとるんで」と全校生徒の前で言わせました。それまでは学園で主人公は何をするのか、ベクトルが出ていなかったのだと思います。

編集者 齊藤

齊藤

そのシチュエーションだと、周囲の2、3人に言う程度では、大きなベクトルは生まれないということですね。

附田祐斗

附田
先生

全校生徒の前で言うからこそ伝わると思います。主人公が「てっぺんとる」の説得力は、第1話で親父から「その学園で生き残れないなら、俺を超えるなんて笑い話だ」と言われ、だから主人公は学園に入るんです。親父にあんなこと言われたら、てっぺん取るしかないよね」と読者も乗ることができると思って。なので方法は、口で言わせる、コマを大きくする、説得力を持たせる、です。

 

Q.「美作のエピソードの話で、丁寧に駐輪場に停めることと、南京錠をかけることの強い・弱いはどういう違いですか?」

附田祐斗

附田
先生

見た目での分かりやすさです。丁寧に丁寧にバイクを押す姿は、動画だったらいいんですよ。視聴者も「早くしろよ!」とイライラすると思いますし。でも漫画で描くなら鍵がどんどん増えて、カバーがかかって…という方がぱっと見で「コイツ、すごい慎重だな」と、より伝わると思ったんです。

編集者 齊藤

齊藤

漫画においては絵の分かりやすさは重要ですね。だから強い・弱いというより、どちらのほうが伝わりやすいかということですね。

 

Q.受講生に向けて

編集者 齊藤

齊藤

それでは最後に、プロを目指す受講生の皆さんに一言いただけますでしょうか。

附田祐斗

附田
先生

僕は会社員勤めをしていましたが、本当に仕事ができませんでした。今は漫画家をさせて頂いておりますが、本当に天職だと思っています。ここにいらっしゃる皆さんの中にも漫画家・原作者が天職の方がいらっしゃると思うので、頑張りましょう。

編集者 齊藤

齊藤

ありがとうございました!
  1. 【第1回】キャラクターとはベクトル(矢印)である
  2. 【第2回】ネームが組めないときは
  3. 【第3回】質疑応答

附田祐斗先生 tsukuda yuto

漫画家。第34回ジャンプ十二傑新人漫画賞で『牙になる』が十二傑賞受賞。2012年〜2019年、週刊少年ジャンプで『食戟のソーマ』原作担当。

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