
東
少年漫画としていろんな要素がある中で、松井先生以前取材した時に「数ある要素の中で、キャラは最優先ではない」とおっしゃっていたのですが、古舘先生はキャラはどれくらい大事だと思いますか?たとえば優先順位で1番上に来る、など。

古舘
先生
難しいですね…その認識が。

東
キャラという言葉がさす範囲が?

古舘
先生
うーん。まあ自分の場合は、ストーリーが面白いものが描けるわけじゃないから。

東
いやいや!それを言うといろんな人が「んんっ!?」ってなります(笑)!

古舘
先生
いやでもたとえば「近未来のバレーはこうだ!」とか「バレーにオリジナル要素を加える」とかやれたら面白いじゃないですか。宙に浮けるヤツが出てきたりとか。

東
思いもよらない設定ということですね(笑)。

古舘
先生
そうそう。「誰もが思いつかないようなネタがあるわけではないけど読める」のは、キャラが負けた時のリアクション、勝った時のリアクションとかのほうが、勝ち負けそのものよりも面白いからだと思うんです。だから面白い話があまり描けないというのであれば、やっぱりキャラは大事なんじゃないですかね。キャラの行動とか。松井先生の場合、「キャラは大事じゃないけど、これが大事」というのがあるのでは?

東
松井先生は「設定やストーリー、世界観を先に決めて、それを面白く見せるための最後のピースとしてキャラがある」と。『暗殺教室』だったら「生徒が先生を暗殺するという教室がある」と設定して、「先生は1年間殺されずにいないといけないから、『ヌルフフフ』と余裕で笑いながら避けれちゃうキャラクターになっていないといけない」という順番で作っていく。だから「キャラクターは最終的に消去法で作られるもの」であって、最初にそのキャラクターを面白いと思って作るという意味で、「優先ではない」と仰っていました。

古舘
先生
ああ!そうなんじゃないですか!だっていきなり何もない場所に面白いキャラクターだけをポンと作れないですもんね。

東
『ハイキュー!!』も、ざっくり言うと「すごいセッターがすごいスパイカーにすごいトスを合わせる」というところからスタートしているじゃないですか。でもそれだけだったら、日向のキャラのパターンも読切などでもいっぱいありますし、どういうキャラでも成立しますよね。

古舘
先生
最初は影山が主人公で、すごいセッターがいてトスを合わせる話が一番最初だから、キャラが最初じゃないですね。

東
なるほど!「大事ではあるけどスタートではない」ということですね。

古舘
先生
うん、「このキャラの生い立ちを0歳から」っていうのはないでしょう?

東
ないですね。だからスタートはキャラではないけど、日向のキャラクターで連載があそこまで行けるかどうか、という意味ではすごく大事ということなんですね。読切での日向のキャラでいってたら、あれだけの作品にならなかったと。

古舘
先生
そうですね。

東
本田さん(初代担当)はよく「古舘先生はキャラクターにアイデアがある」と言うんですが、新人時代にキャラクターについて本田さんに言われて覚えていることはありますか?

古舘
先生
一番覚えているのは反発したほうの話ですけど…。『四ッ谷先輩』のヒロインの女の子「真」のモチベーションの話で、「モチベーション」という単語が嫌いになりましたね(笑)。

東
僕も言って怒られたやつですね(笑)。

古舘
先生
そうでしたっけ?

東
「このキャラのモチベーションがー」って言ったら「でた、モチベーション…」って(笑)。

古舘
先生
それですね(笑)。『四ッ谷先輩』では「視点役になる真は四ッ谷先輩をいやいや手伝うほうが良い」と言うのが本田さんの意見で。巻き込まれ系というか、何だかんだ助けちゃうという。
その時、本田さんは松井先生の担当で『魔人探偵脳噛ネウロ』を参考に言っていたんですよね。『四ッ谷先輩』では3話かけて真が四ッ谷先輩に親友の命を助けてもらうんです。だから4話から真は自分から協力していく話を考えていたんですよ。でも「巻き込まれ系のまま動いてくれるほうがいい」という話になって、そうしたら結果毎回モチベーションがないんですよ。
だから描きながら「なんでこの子は四ッ谷先輩を手伝いたいんだろう」というのを疑問に感じていて。それで連載終了が決まってから、「どうせあと数話だし、やることやるぞ!」って。それでちょっと鬱陶しいというか、熱いキャラになって「これじゃん、やっぱり!」「自分から行くようにすればめちゃくちゃモチベーションがあるじゃん」って思ったんですよね。別に本田さんへの批判というわけではなく。

東
意見が合う合わないというのは、都度起こりますからね。

古舘
先生
そうそう。自分が描くには素直なタイプのキャラのほうが良かった。それが日向にも通じるところで、若干いき過ぎるくらい他人を信じるところとか。それも「この人はこういう行動をするかどうか」という問いかけをして。たぶん序盤の真はそうじゃなかったんですよね。

東
意見が分かれた例になっちゃいましたけど、本田さんは「事件に巻き込まれながらもモチベーションはきちんとあったほうがいい」という人だったんですよね? でも結果として、本田さんと作ったキャラはモチベーションがなくなっちゃったんですよね。

古舘
先生
そうですね、迷いが出てしまった。

東
四ッ谷先輩に巻き込まれて無理矢理手伝わされるという形でしか真が関われなくなっちゃったということですよね。それは古舘先生にとっては描きづらかった、と。

古舘
先生
そうですね。真が3話以降に、四ッ谷先輩の信奉者ではないですけど「この人実はめちゃくちゃいい人じゃない!?」というふうにしたかった。

東
それで「どんどん不思議をみつけましょう!」という流れのほうが良かったのでは、ということに最後になって気が付いたということですよね。

古舘
先生
そうですね。それも、本当に最後のほうを描いたら「こっちのほうが良かったんだな」と気付く感じだったので。最初から自分にしっくりくるキャラの回し方を見つけるって難しい。実際にやってみて気付く。本田さんの提案したバージョンでも、今だったらもう少し楽しく回せる気もします。モチベーションの部分もコメディっぽく面白くやったり。本田さんは今四ッ谷を見てどう思うんだろ?
リアクションの話で「自分だったらそれに対してこう返す」とか「こういうことをするだろうな」という、まず自分の基準があって、で、それをめちゃくちゃネガティブにしてみたりポジティブなものにしてみたりすると、色んなキャラクターができる気がします。

東
なるほど。その指針はポジティブとネガティブなんですね。

古舘
先生
うん、まあ一番はそれですかね。木兎のキャラクターは自分の中にはないけど、ポジティブ限界突破すると木兎になる (笑)。それでそのちょっと下あたりに日向。まだ人間の心を残している(笑)。

東
何の漫画ですか(笑)。下方にしていくと谷地ちゃんとか桐生になっていくってことですよね。

古舘
先生
ああ、そうですね。
第9回へ続く