【第8回】キャラは大事だけどスタートでなくてもいい 『ハイキュー!!』古舘春一先生に聞いてみた

「漫画はキャラクターが大事」。でも「何も無い場所に面白いキャラだけ作れない」と古舘先生は言います。

2021/11/11


編集者 東

少年漫画としていろんな要素がある中で、松井先生以前取材した時に「数ある要素の中で、キャラは最優先ではない」とおっしゃっていたのですが、古舘先生はキャラはどれくらい大事だと思いますか?たとえば優先順位で1番上に来る、など。

古舘
先生

難しいですね…その認識が。

編集者 東

キャラという言葉がさす範囲が?

古舘
先生

うーん。まあ自分の場合は、ストーリーが面白いものが描けるわけじゃないから。

編集者 東

いやいや!それを言うといろんな人が「んんっ!?」ってなります(笑)!

古舘
先生

いやでもたとえば「近未来のバレーはこうだ!」とか「バレーにオリジナル要素を加える」とかやれたら面白いじゃないですか。宙に浮けるヤツが出てきたりとか。

編集者 東

思いもよらない設定ということですね(笑)。

古舘
先生

そうそう。「誰もが思いつかないようなネタがあるわけではないけど読める」のは、キャラが負けた時のリアクション、勝った時のリアクションとかのほうが、勝ち負けそのものよりも面白いからだと思うんです。だから面白い話があまり描けないというのであれば、やっぱりキャラは大事なんじゃないですかね。キャラの行動とか。松井先生の場合、「キャラは大事じゃないけど、これが大事」というのがあるのでは?

編集者 東

松井先生は「設定やストーリー、世界観を先に決めて、それを面白く見せるための最後のピースとしてキャラがある」と。『暗殺教室』だったら「生徒が先生を暗殺するという教室がある」と設定して、「先生は1年間殺されずにいないといけないから、『ヌルフフフ』と余裕で笑いながら避けれちゃうキャラクターになっていないといけない」という順番で作っていく。だから「キャラクターは最終的に消去法で作られるもの」であって、最初にそのキャラクターを面白いと思って作るという意味で、「優先ではない」と仰っていました。

古舘
先生

ああ!そうなんじゃないですか!だっていきなり何もない場所に面白いキャラクターだけをポンと作れないですもんね。

編集者 東

『ハイキュー!!』も、ざっくり言うと「すごいセッターがすごいスパイカーにすごいトスを合わせる」というところからスタートしているじゃないですか。でもそれだけだったら、日向のキャラのパターンも読切などでもいっぱいありますし、どういうキャラでも成立しますよね。

古舘
先生

最初は影山が主人公で、すごいセッターがいてトスを合わせる話が一番最初だから、キャラが最初じゃないですね。

編集者 東

なるほど!「大事ではあるけどスタートではない」ということですね。

古舘
先生

うん、「このキャラの生い立ちを0歳から」っていうのはないでしょう?

編集者 東

ないですね。だからスタートはキャラではないけど、日向のキャラクターで連載があそこまで行けるかどうか、という意味ではすごく大事ということなんですね。読切での日向のキャラでいってたら、あれだけの作品にならなかったと。

古舘
先生

そうですね。

編集者 東

本田さん(初代担当)はよく「古舘先生はキャラクターにアイデアがある」と言うんですが、新人時代にキャラクターについて本田さんに言われて覚えていることはありますか?

古舘
先生

一番覚えているのは反発したほうの話ですけど…。『四ッ谷先輩』のヒロインの女の子「真」のモチベーションの話で、「モチベーション」という単語が嫌いになりましたね(笑)。

編集者 東

僕も言って怒られたやつですね(笑)。

古舘
先生

そうでしたっけ?

編集者 東

「このキャラのモチベーションがー」って言ったら「でた、モチベーション…」って(笑)。

古舘
先生

それですね(笑)。『四ッ谷先輩』では「視点役になる真は四ッ谷先輩をいやいや手伝うほうが良い」と言うのが本田さんの意見で。巻き込まれ系というか、何だかんだ助けちゃうという。
その時、本田さんは松井先生の担当で『魔人探偵脳噛ネウロ』を参考に言っていたんですよね。『四ッ谷先輩』では3話かけて真が四ッ谷先輩に親友の命を助けてもらうんです。だから4話から真は自分から協力していく話を考えていたんですよ。でも「巻き込まれ系のまま動いてくれるほうがいい」という話になって、そうしたら結果毎回モチベーションがないんですよ。
だから描きながら「なんでこの子は四ッ谷先輩を手伝いたいんだろう」というのを疑問に感じていて。それで連載終了が決まってから、「どうせあと数話だし、やることやるぞ!」って。それでちょっと鬱陶しいというか、熱いキャラになって「これじゃん、やっぱり!」「自分から行くようにすればめちゃくちゃモチベーションがあるじゃん」って思ったんですよね。別に本田さんへの批判というわけではなく。

編集者 東

意見が合う合わないというのは、都度起こりますからね。

古舘
先生

そうそう。自分が描くには素直なタイプのキャラのほうが良かった。それが日向にも通じるところで、若干いき過ぎるくらい他人を信じるところとか。それも「この人はこういう行動をするかどうか」という問いかけをして。たぶん序盤の真はそうじゃなかったんですよね。

編集者 東

意見が分かれた例になっちゃいましたけど、本田さんは「事件に巻き込まれながらもモチベーションはきちんとあったほうがいい」という人だったんですよね? でも結果として、本田さんと作ったキャラはモチベーションがなくなっちゃったんですよね。

古舘
先生

そうですね、迷いが出てしまった。

編集者 東

四ッ谷先輩に巻き込まれて無理矢理手伝わされるという形でしか真が関われなくなっちゃったということですよね。それは古舘先生にとっては描きづらかった、と。

古舘
先生

そうですね。真が3話以降に、四ッ谷先輩の信奉者ではないですけど「この人実はめちゃくちゃいい人じゃない!?」というふうにしたかった。

編集者 東

それで「どんどん不思議をみつけましょう!」という流れのほうが良かったのでは、ということに最後になって気が付いたということですよね。

古舘
先生

そうですね。それも、本当に最後のほうを描いたら「こっちのほうが良かったんだな」と気付く感じだったので。最初から自分にしっくりくるキャラの回し方を見つけるって難しい。実際にやってみて気付く。本田さんの提案したバージョンでも、今だったらもう少し楽しく回せる気もします。モチベーションの部分もコメディっぽく面白くやったり。本田さんは今四ッ谷を見てどう思うんだろ?
リアクションの話で「自分だったらそれに対してこう返す」とか「こういうことをするだろうな」という、まず自分の基準があって、で、それをめちゃくちゃネガティブにしてみたりポジティブなものにしてみたりすると、色んなキャラクターができる気がします。

編集者 東

なるほど。その指針はポジティブとネガティブなんですね。

古舘
先生

うん、まあ一番はそれですかね。木兎のキャラクターは自分の中にはないけど、ポジティブ限界突破すると木兎になる (笑)。それでそのちょっと下あたりに日向。まだ人間の心を残している(笑)。

編集者 東

何の漫画ですか(笑)。下方にしていくと谷地ちゃんとか桐生になっていくってことですよね。

古舘
先生

ああ、そうですね。

第9回へ続く

  1. 【第1回】取材は雑談が大事
  2. 【第2回】「漫画でやったらカッコよさそうなもの」を参考に
  3. 【第3回】物語を優先すると戦術に矛盾が生じる
  4. 【第4回】たどりつきたい絵を決める
  5. 【第5回】コマ割りは、大きいのも小さいのも限界を探すところから
  6. 【第6回】キャラクターはボケかツッコミか
  7. 【第7回】現実の人は参考にしない
  8. 【第8回】キャラは大事だけどスタートでなくてもいい
  9. 【第9回】『ハイキュー!!』にイヤなやつがいない問題
  10. 【第10回】「ここに向かって来たんだな」という作品を

古舘春一先生 Furudate Haruichi

漫画家。2008年第14回JUMPトレジャー新人漫画賞で『王様キッド』が佳作受賞。2012年〜2020年、週刊少年ジャンプで『ハイキュー!!』連載。

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